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喝采

 とてもお久しぶりです。
 退職も決まり、有休も全部消化…とはいかず引継ぎしたり残りの仕事を行ったりという感じで、3日に1回は出勤という感じで消化をしています。

 いやいや、辞めるなんて悪い冗談だろう何を言っているんだい?という感じで周りに言われたり。
 辞めたら生活できなくなるのでやめないでくださいと下請けの人に言われたりと、そこそこ切実な感じで引き留められました。

 ここで情が写って残っても所得が100万も増えるわけでもなく、むしろいつ辞めるかわからない奴と思われてかえって悪影響なわけですからね。何言われても残るつもりは当然ありません。
 当然ないんですが、取引先には来年度も居ると言ってくれと言われたり、来年度の仕事に向けたコンペでプレゼンを依頼してきたりと、辞めさせられない外堀を埋めるような作戦に出られ、それを断り続けた結果、仕事場の雰囲気は最悪になり、出勤しづらくなったので3日に1回の出勤も精神的につらくなりました。


 ということで、ほぼ毎日遅い時間に寝て遅い時間に起きるの繰り返し。
 3月いっぱいはダメ人間を満喫しようと開き直り、「有田と週刊プロレスと」視たさあまりにAmazonプライムに入ったら、気になっていた映画やらドラマやらが多数あり、昼間はパチスロ、夕方から夜までは映画観賞という生活を満喫しています。


 そんな折、「あれ?これの続編はAmazonプライムにはないの?」みたいな感じで検索していたらyoutubeにたどりつき、その動画を見ている横に目をやると、興味ありそうな動画リストの中にどこかで見たことがある人がいた。
 クリックしてみるとなんてことはない、ゲーム実況にお役立ちアイテムの紹介など既にどこかのyoutuberが耕しつくしたようなことをしているおっさんの動画だった。

 ゲーム実況の動画もまるで誰かがやっているのとまるで同じでオリジナリティがなく、3分も観てられない内容。
 何かお役立ちアイテムの紹介の動画も、これもまたオリジナリティがなく、2分も観てられなかった。
 そんなつまらないことを淡々とこなすおっさんの顔を見ていてようやく思い出せた。

 同じ高校で、同じクラスで、お互い違うバンドで同じライブハウスに出ていた彼だった。
 彼よりも複雑な家庭環境の友人は、その後の人生でたくさん会うことになるが彼は少なくとも一番最初に見た複雑な家庭環境の友人だった。

 始めて彼の家に行ったときのことをよく覚えている。
 周りにはあまり建物がなく、ポツンと建つ3階建ての小さいアパート。
 総世帯は15世帯くらいだろうか。
 そこの2階に彼は住んでいた。

 ただ、そのアパートの駐車場には車もなければ、駐輪場にも自転車はほとんどない。
 そして建物全体が静まり返っていて15世帯くらいの居住者が居るとは思えない雰囲気だった。


 その理由もすぐにわかった。
 彼の家に上がり、部屋に案内されると、そこにはギター、ベース、キーボードもあればアンプも数台あり、驚いたのは部屋の奥にはドラムセットも置いてあり、ちょっとした安いスタジオレベルの機材が並んでいた。
 子供ながらにも「アパートでこんなこと許されないよな?きっとドラムたたくときは消音パッドとか使ってるんだろう」と思ったが、それらしきものはドラムセットにくっついてなかった。

 「これ叩くの?苦情とか来ないの?」と聞いたが
 「来るけど関係ないよ。知らないよ。」と彼は答えた。
 「いやいや、知らないって言いきれなくない?」と更に質問すると
 「うるさいとか言ってくるけどね。今のお前のうるさいって怒鳴った声のほうがうるさいって言ってやってるよ。」
 「ああでももう大丈夫だよ。うちの周りに住んでたやつらは全員引っ越したから。」という感じで、なんか異常な奴とお友達になってしまったなとすぐに思った。

 その後、楽器を大音量で弾き始め、ガシャンガシャンという音が狭いアパートにこだまする。
 生活感があまり感じられないアパートは、彼が遠慮なしに楽器を弾き、それに耐えきれなくなった周りの住人が出ていくことに原因にあった。

 後日談だが、当然そんなことはいつまでも続くはずもなく、その1年後には彼の家族はアパートを追い出された。



 彼の母親は若く、不倫三昧で家に殆どいなかった。
 その母親よりもだいぶ年齢が年上の父親を一度だけ見たことがあったが、とても真面目そうな父親だった。
 そんな彼は、時折しか家に帰らないながらも放任してくれる母親のいうことは聞くものの、父親のいうことは何一つ聞かなかった。
 そして、彼は周りに対して常に注目されたいと思う人間で、あることないこと大きな嘘をつき、そしてそれがばれると開き直ったり逆ギレしたりしていた。
 さらには、注目ひきたいがあまり、全身をナイフで切り刻むなどの自傷行為をするも、基本的には洋服を着ていても見える位置にしかその傷はなかったりと、子供ながらにも、親の愛情をあまり感じることのできない環境で育ったがゆえに、こんなひねくれた人間になってしまったんだろうと思った。

 何事も仲間内では自分が一番じゃなければ気が済まない。
 そんな人間でありながらも求心力は乏しく、まったくもってない。
 ゆえにただのワガママな人間としか周りには思われない。
 彼のバンドはメンバーチェンジを繰り返し、気が付けば彼の周りには誰も居なくなった。
 私のほうのバンドメンバーはというと、あいつは変だし、どうも周りを踏み台にしてやろうくらいにしか思ってないから関わりたくないという感じで、関係もなくなった。



 そんな折、彼は授業料が払えなくなった。
 周りにカンパを募るものの子供なので、ましてや私立なこともあり、授業料なんて払える金額でもなかった。
 誰もカンパをしてくれないことに逆上して教室で喚き散らしていた。
 そして、その日の夜、自宅に一方的に怒鳴り散らして切ってしまう謎の電話がかかってきた。(まだ当時は携帯なんて一人一台の時代じゃなかったので。)


 こればかりは、彼が仮に周りに好かれていようがいまいが子供ではどうしようもないことだった。
 でも現実はすっごい嫌われていたので、誰もそんなもの相手もしなかった。
 彼女のみならずその子の親にも言葉巧みに金を騙しとって、楽器買っちゃうような生き物で、その事実は周りはみな知っていたので、結局、授業料払えないというのは嘘で、楽器買うんだろうよくらいにしか周りには思われてなかった。

 後日、彼は学校に来なくなり、本当に授業料が払えなくなって退学となったということがわかった。



 その後、共通の友人も多く居たことから、時折足取りを耳にしていたが、
・ミュージシャンを目指す夢を追い続け、どこかの駅で弾き語りをしているが、無職で常に金を持ってないのでガリガリに痩せている。
・栄養失調になりさすがに音楽だけでは食っていけないと悟り、バイトをしているが性格に難がありすぎて短期間でクビになり続けている。

 などの話を耳にするも、次第に共通の友人も一人、また一人と大人になり社会に出て、家族を持ち、気が付けばもう何年も連絡を取っていないので、そもそも彼のことなどすっかり忘れてしまっていた。


 

 それがこうやって数十年の時を経て、インターネットという空間を通じて動画で見るとは夢にも思わなかった。

 誰かの二番煎じどころか百番煎じくらいで、すっかりお湯になってるとしか思えないようなコンテンツ。
 そしてそれを如実に表す、1年前の動画も1000に満たない再生数。
 オリジナルの弾き語りラブソングの動画を見たが、高校生の頃から何だか変わっていない、世界で君しか好きじゃない。抱きしめてチューしちゃうぞみたいな世界観は変わってなかったので安心した。
 
 さらに、何か世間に対して物申す動画もあったので見てしまったが、馬鹿すぎて何を言っているのかよくわからず右上の×ボタンを押してしまった。


 まともに仕事ができない自分でもyoutubeなら稼げると思って始めたのか。
 それとも、自分の歌をyoutubeにアップすれば自分の名前を広められると思ったのだろうか。

 コメント欄に、また自傷行為でもしてアップすれば再生数伸びますよと書き込んでやろうかとも思ったが、関わりたくもないのでやめた。



 ステージに立って、誰かの喝采を浴びることというのは、たまらないほどの快感で人によってはそれが病みつきになるなんて聞いたことがあります。
 子供の頃ならまだしも、もうずいぶんなおっさんになってもyoutubeで未だに誰かの喝采を渇望している彼の姿を見て、やはり、人間誰しも一人では生きていけないということ。そして、誰かに認められること。承認欲求を満たすということは、人として健康な心を保つ意味でも重要なことなのだろうと思いました。
 
 でも、子供のころからおっさんになった今でも、それを渇望する彼の姿を見て、彼自身に対してどうのこうの思うことよりも、子供の育て方って正解はないのに、間違いは多くあるから大変だなと思いました。
 子供は親を選べないですからね。

 ちなみに私は母親に「子供は親を選べないからね」と言ったら、「あたしだって、あんたみたいな不細工の精子選んで受精したわけじゃないわよ!」と怒鳴られましたけどね。
 つまりどっちも選べないんですけどね。
 そして改めて、ちゃんと大学卒業まで面倒見てくれた自分の親には感謝をしたいと思います。



 かあさん、彼女からのもう別れたいという郵便で送られてきた手紙を俺が読むよりも先に読み、開封して机の上に置いておいてくれてありがとう。

 かあさん、そしてその手紙を帰ってきて玄関で靴脱いでる俺に要点を説明し、「あんな脚がぶっとい女別れて正解よ!」と励ましてくれてありがとう。

 とうさん、毎年家にスズメバチが巣を作るのに、業者を呼ばないで自力でスズメバチと戦って巣を破壊してくれてありがとう。

 とうさん、ただ、作られない対策をせずに、作られた後の対策としてポータブル火炎放射器を購入し、喜々としてそれを巣に向けて放つのはやめてください。家が燃えそうになるので。




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  • Date : 2017-03-28 (Tue)
  • Category :  日常
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